1962年生まれ、かな入力千代子のお天気日記

あの、自分が還暦を過ぎた事が自覚できないのです。まだ知りたい事、知らない事が沢山ある気がします。

ヒモのはなし

昔、昔のはなしです。

千代子は、学生の頃、演劇のサークルに入っていました。

当時、千代子のサークルの周りでは、紀伊國屋ホールで演じられる、つかこうへい事務所の芝居を、皆、熱狂的に見ていました。

熱海殺人事件は、大山金太郎を加藤健一さんが演じるのと、平田満さんが演じるのと、両方とも夢中に見ていました。

その中で、「ヒモのはなし」は、上演したものは、見ていませんでした。

しかし、大学に文学部があるので、戯曲が大学の図書館に置かれているのを見つけ、図書館で、戯曲を読みました。

主役のストリッパーの話よりも、千代子が感情を移入して読んでいたのは、脇役のみどりというストリッパーの話でした。

みどりは、主役のダンサーとなる事もなく、からだも弱い人でした。そして、長年暮らしていた、まことと、まことの故郷に帰る決断をします。

みどりにとっては、誰も知らない土地で生活する事となります。

みどりは、劇場の支配人に今後の不安とも希望ともつかない気持ちを話します。

この、住み慣れたところから移る時の不安や希望をかたる言葉が、若い千代子の心に刺さったのです。

まことに自分の将来を委ねる、みどりの決意の言葉が、千代子の琴線に触れたのです。

みどりを演じたい。

千代子は、それ程、欲もなく生きてきた人間ですが、その戯曲を読んだ時、強く願いました。

劇団の養成所には、どこも月謝が必要です。サラリーマンの家庭で、私立の大学まで行かせて貰っている千代子は、そこまで親に言えませんでした。

戯曲の最後には、初演の場所、演じた人が書かれていました。

みどりは、角替和枝さんが演じていました。本当に、角替さんが羨ましく感じました。

後に柄本明さんと結婚され、近年、逝去されました。

戯曲を読んで、あんなに心が動かされたのは、あの作品だけだったかもしれません。